東京高等裁判所 昭和42年(ネ)235号 判決
控訴人は、負債整理のためにそれまで居住していた自己名義の仲御徒歩町の家屋敷を売却したので、これに代る住宅を入手すべく物色していたところ、たまたま本件不動産が一、二〇〇万円で売りに出されていたのを知り、これを買い取るべく、主としてその夫次男において、本件不動産に居住していた留守番を通じて大阪に在住する所有者の梅田健次郎と交渉を重ねてみたが、売主は当初の売値一、二〇〇万円を固執し、せいぜい値下げしても一、一五〇万円以下では容易に入手できないことがわかつたので、控訴人自らまた夫次男をも通じて、昭和三七年六月下旬ころ、不動産業者である被控訴会社の当時の代表取締役小日向正春に対して、右の事情を告げ本件不動産を金の都合もあるので是非一、〇〇〇万円以下で買い取ることができるよう斡旋されたい旨を依頼し、小日向の求めに応じて同年七月一日甲第一号証の委任状を差し入れた。そこで、小日向は、同月二日ころ従業員の磯村光を伴つて大阪に前記梅田を訪ね、控訴人から依頼された事実を秘匿して、本件不動産を八〇〇万円くらいで買い受けたい旨を申し入れ、八五〇万円まで買値を引き上げ、梅田は売値を一、〇五〇万円くらいまで引き下げたが、それ以上の歩みよりがなかつたので交渉は妥結にいたらず、数日後に同人が上京するからそれをまつて東京で交渉を続けることを約して小日向らはいつたん帰京し、控訴人にその旨を報告した。数日後梅田が上京し約一週間にわたつて控訴人と直接交渉をすすめる傍ら被控訴人に対しても電話で買受金額を打診してくるや、その都度、被控訴人は、最終買受値段として九〇〇万円の線は崩されないと応答して控訴人の方の交渉が有利に展開するようにはかり、控訴人は、同月二三日本件不動産を梅田から代金九五〇万円で買い入れ、翌二四日その旨の所有権移転登記を経由したことを認めることができる。右認定にていしよくする原審並びに当審証人都築次男の証言は、前掲各証拠にてらしてにわかに措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
しかして、これら認定の事実によれば、昭和三七年六月下旬ころ控訴人と被控訴人との間に本件不動産の売買の周旋を目的とする仲介契約が成立したのにその後控訴人が故意に右周旋による売買契約の成立を妨げたことを前提とする被控訴人の第一次的請求原因は、その基本の事情を異にすることが明らかであつてこれを採用するに由ないが、被控訴人が予備的請求原因として主張するごとく、同日両者の間に一、二〇〇万円で売りに出されていた本件不動産を控訴人が一、〇〇〇万円以下で買い取ることができるよう被控訴人において尽力する旨の準委任契約が成立し、同契約に基づき、被控訴人は、売主の梅田に対して売値を下げるように種々働きかけ、その結果、控訴人は、希望どおり、同人から本件不動産を代金九五〇万円で買い取ることができたもの、ということができる。
ところで、被控訴人が免許を受けた宅地建物取引業者であることは、当事者間に争いがなく、また、前記契約に基づく被控訴人の行為は、その営業の範囲内において控訴人のためにしたものと認めることができるので、報酬の支払いについて特段の約定があつたことを認めるべき的確な証拠のない本件においても、被控訴人は、商法五一二条の規定の適用又は準用により、控訴人に対し右行為について相当の報酬を請求することができるものというべきである。そして、右に認定した経緯によつて被控訴人の払つた努力、控訴人の得た利益、その他諸般の事情にかんがみれば、その報酬は、金一五万円をもつて相当と認めるべきである。
(浅沼 上野 渡部)